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▲1977年留学日記にもどる
1977年8月
8/4/77 THU

ロンドン大学にいく話も親に反対されているうちは情熱を燃やしていたが、最近少しだれていた。目的や励みが日ごとに薄れていくのだ。それが学校に新しくやって来た人と話をしていたらまた元気になる。彼女はチューリッヒの大学に通っていて、夏休みを利用して英語の勉強にロンドンにきたと言っていた。


8/6/77 SAT

ようやくタイプライターを買った。すると不思議なことにキーボードは指が覚えていてすらすらと打てる。オリベッティのハンディ・タイプ。ケースにしまうとどこにでも持ち運びができる。ひさりぶりの土曜日。先週はひどかった。ロンドンに着いたばかりの弟を残して、文子さんについてロンドンの観光案内をする。将来ガイドのコースを目指すなら、こういう経験が必要なのだそうだ。わたしは目的もなく、歩き回り、団体の扱いに慣れていないから死ぬほど疲れた。


8/9/77 TUE

文子さんの紹介で日本ガイド協会というところの仕事を受けることになった。日本からきた服飾関係の方をバースまで案内して、そこにあるコスチューム・ミュージアムを見せるというオプショナル・ツァーの担当である。相手が安心するように台詞回しまですっかり教わって、宿泊先のホテルへ迎えに行く。メンバは6名、全部おばさま方。電車でロンドンから一時間。バースの名所を案内して、目的の服装博物館では感嘆の声をあげていた。おまけに希望者だけ、ロンドンバス乗車体験をしたら、といってもビクトリアまでのほんの3-4駅であるが、ひじょうに喜ばれた。この仕事、はじめに£10貰い、あとから小切手で£18送られて来た。銀行でポンドに換えて、得したのか、よかったのかと考えたが、これが毎週あったら、疲れ果ててしまうだろう。


8/12/77 FRI

学校に通っている友だち3人と弟とわたしの五人で日本人クラブを開き、夕食に招待しました。カリフォルニア米を焚いて、きゅうりとショウガをきざんだ、即席浸け、ローストビーフに、デザートは小豆を似たものをアボガドにかけて食べるというもの。小豆はセーフウェイでも売っていますし、一晩水に漬けておきさえすれば、あとはごとごと煮ていくだけ。ここで何人の友だちをもてなしただろうか。


8/16/77 TUE

弟が来たら、パリに行こうと決めていたので、来週パリに行きます。切符は国際学生証をみせていちばん安い切符を買いました。もちろん船でいくのです。ホテルも弟のクラスのフランス人に交渉してもらって、サンジェルマン・デ・プレにあるオテル・ボナパルドというところを予約しました。こんなとき、国際色豊かな語学学校に通っている意義がありますね。


8/17/77 WED

弟は、わたしと同じ学校に通い、夕食をたべると自分の家に帰っていくのですが、毎日ちっとも楽しそうじゃない。外国でひとりで暮らすのはやはり辛いのだと思う。なんでも自分で考えて、決めていかないと、だまっていて与えられるものはなにもないでしょう。なにしろここに着いたとたん、日本食になってしまって、よくレストランに行きたがる。せっかく持って来てくれたおせんべいの大半をたべてしまった。弟もわたしもおたがいに甘えて、いつもいっしょにいるような気がする。


8/27/77 SAT

今、パリでこれを書いている。22.05 に Victoria から列車にのって、途中、フェリーとまた電車を乗り継いで朝8.05 に Paris に着いた。一日中歩き回って疲れた。わたしは二度目、弟ははじめてのパリです。ガイドブックを頼りに地元の人ばかりというレストランに入って、なんとかコースをオーダする。まず、トマトを薄切りにした上にさらした玉ねぎが乗っているサラダがでた。オイルが最初からかかっていて、そこにビネガーと塩、胡椒を振りかける。これってフレンチドレッシングなのかしら。ガイドブックによれば、テーブルに布のクロスが掛かっているところは高級で、紙が敷いてあるところは安いという。たしかに紙が敷いてある。最後にお勘定するとき、その紙に数字を書いて計算するので分かりやすい。パリの下町は懐かしい気持ちがする。


8/28/77 SUN

エッフェル塔にのぼり、パリの町を見下ろす。外国に来ている気分がする。弟とずっといっしょなのは変な気分。帰りにちかくのレストランでハウスワインを一本空けてしまった。まっかな顔してだがいい気分。こんなに気持ちよく酔えたのは初めてだった。さすがにワインはおいしい。きょうは待望のルーブルに行って来た。"モナ・リザ"を見る。モナ・リザは確かに生きている。そして笑うのだ。光線の加減なのかもしれないが、ずっと見ていると確かに唇が動く。弟は目が動いたと言っていた。


8/31/77 WED

きょうで八月が終わるなんて信じられない。なにしろ暑くないから、季節感覚がなくなってしまった。きのうパリの疲れが出たのか、八時から三十分ほど眠ってしまった。弟の面倒を見ることがやはりたいへんになっている。いろいろ文句をいうし、ひとりなら簡単にすますこともできるのに、食事の支度もある。パリはフランス語が話せなかったから、半分も楽しめなかった。九月から四か月で仏語も勉強しよう。



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