1974.4.7
■チェルシーの公立図書館の貸し出しカードを作りました。

ほんを借りるには、保証人がいります。泊まっているホステルの事務所で国際学生証を見せたら、書類にサインをしてくれました。イギリスでは、大学の進学率がわずか10%足らずですから、学生だというだけで特典があります。その書類をもって図書館に行き、年会費として£1 払うと、貸し出しカードを作ってくれます。これがあると、図書館で読書もできるし、音楽用のレコードも聞けます。チェルシーの図書館は重厚な木の家具に囲まれていて、落ち着けます。きっとマホガニーじゃないかしら。むかし、漱石もこんな感じで勉強したのかしらと思うと、感慨もひとしおです。


1974.4.8
■友だちを迎えにヒースロー空港まできています。

時間はたっぷりあるので、一度やってみたかった"バスを乗り継いで空港まで"というゲームに挑戦しています。空港は南のほうにあるので、これまで通ったことのない地区を通過しています。途中に大きなインド人街があります。歩いている人は全部インド人、レストランも、洋服もインドそのもの。第一、看板の文字がインド語表記です。ロンドンは、この頃からインターナショナルな都市でした。世界中のあらゆる民族が集まっていて、それぞれが独自の暮らしぶりを貫いています。


1974.4.9
■あきらめていたELPのチケットを発見。

Shaftesbury Avenue を歩いていたら、チケット・オフィスに"EL&P, APRIL18-21 Wembley Empire Pool" と書いてありました。すぐに飛び込んで、切符がまだ残っているかと確認したところ、何枚かあるのです。嬉しかった。だって、苦労して取った切符が April 21 なので、泣く泣くそれをキャンセルしたのです。飛行機は4月20日に予約したし、これ以上帰国が遅れると授業がはじまってしまうから、日本に帰ることに決めていました。それが4月18日なら、十分に間に合うのです。 ロンドンでは、ダフ屋のかわりにこうした正規のチケットオフィス(日本のディスカウント・ショップのようなもの)があって、正規料金の15%増しくらいで販売してくれます。ミュージカルや、お芝居のチケットはもちろん、ロック・コンサートのチケットもあります。 いまでもピカデリーの近くのこのShaftesbury Avenue には何軒か、この種の店が並んでいます。


1974.4.10
■友だちとふたりでハイドパークに来ています。

ハイドパークは、日本で言うなら日比谷公園と新宿御苑をひとつにしたくらいの規模です。途中に池があってピーターパンの銅像があったり、馬を走らせる馬場もあります。 ロンドンっ子は、ちょっと陽が照れば、ここで日光浴していますし、なにもせずにわたしたちのように、芝生にすわって、のんびり好きなだけおしゃべりするのも楽しい。ハイドパークは、広いのですが、いちばんおしゃれなのは、Kensington Road から Knightsbridge 側から入ること。このあたりに、あのハロッズがあったりして、高級感が漂うお店がならんでいます。


1974.4.11
■King's Road の毛皮屋さんで、ドミニク・サンダをみかけました。

ここは、ロンドンでもいちばん流行の通りです。週末ともなると、大勢の観光客が押し寄せてくるのですが、平日は、それなりに賑わっています。有名人がおしのびで来るのも特徴で、ドミニク・サンダ(初恋でデビュー、暗殺の森などに主演した女優)の場合、偶然同じ店の中にいたのです。存在感があって、ほんとうに綺麗な方でしたが、ボーイフレンドはブラックでした。


1974.4.12
■本屋さんのはなしです。

ロンドンでは、紙がびっくりするほど高い。Ryman の Task memo book (10 × 8 inch) なんてふつうのノートなんですが、これが50Pもする。だから、本の値段も高くて、一般庶民はPenguin Books の安いペーパーブックスを買うのです。このとき、いろんな本を買ったのですが、フランソワーズ・サガンのThe Heart Keeper (邦題: やさしい関係) などは舞台がハリウッドなので、英語で読む方が雰囲気がでていてよかったと思います。ちなみに本屋さんは不定期にSaleをしていて、分厚い本でも40% Off になったりします。


1974.4.13
■週末はおんな三人で一晩中はなしをしていました。

友だちの緑さんと、ここで知り合いになった文子さんの三人で、人生について、仕事について、勉強について、恋についてなど、広範囲な内容をカバーし、しかも、本音を出して、話をしました。いま自分たちがロンドンにいるのも忘れて、すっかり興奮してしまい、日本でもこんな貴重な時間を、どきどきするような話に使ったことはなかったと思います。長い間、友だちでよく分かっていたと思っていた人の思いがけない一面をみたり、新しい自分を教えられ、驚いたりの連続でした。いまでいう、ブレーンストーミングの走りだったようです。